(小説)ハイブリッド・チャイルド    大原 まり子

○アニメ化してくれ。いいたいことはそれだけ。

ねたばれあり、記憶間違いあり。
○ ヒロインのヨナ、サンプルB群という最終兵器は、映画のターミネーターにそっくり。ただ、少しちがうのは、骨格が小さな金属ユニットからできていて組み替え可能なこと、表皮細胞もバイオ技術で普通の細胞とはちがうみたい。そのため、生物の細胞のサンプルをとれば、その生物に変身できる。小型の核融合炉を持ち、半永久的に動く。壊れても、磁力を使って金属ユニットを集め、細胞もどういうしくみなのかバラバラになっても、もとの体に集まっていき、すぐに修復されてしまう。ヨナは、エイリアンや宇宙船ぽい生物に変形するが、主に、少女の形、後半では、大人の女性になる。ちょっとエロいかもしれない。しかし、それよりグロいシーンがよかった。ヨナにとって、肉は、機械の骨格にまとう服のようなものにすぎない。だからサンプリングのために金属の触手を、平気で胸からつきだしたりする。胸がさけて血がふきだす。ヨナはまったく気にしない。また、女性形では、走るときに乳房が揺れて気持ち悪いので、思いっきり自分でもぎとったりする。血はでるが、ヨナにとってはどうでもいいこと。このあたり、文字より映像で見てみたい。マンガとかアニメ化してもらえないものか。ハリウッド級に金をかけないと実写では、単に気持ち悪いだけだろう。変身のシーンとかCGを使ってやったら、かなり、面白そう。
○面白いキャラとして、老人で生まれて若返っていく、神官ヘスがいる。800年の時空に魂の原子がバラバラにされ、その時空のあらゆるところに遍在する。未来の子供のヘスが過去の老人のヘスに話しかけたりする。さらに、この世界では、女神が存在する。
○読後感は、よくないほうかな。バッドエンディングにちかい。登場人物の善人組みは、悪党におそわれて、一人は、寿命だが、死んでしまう。ヨナは、少年型のサンプルB群に会う。ちょっと恋物語になりそうなところ。少年には、軍を逃げ出したヨナを処分するための、しかけがしてある。ふれあったとたん、両者の知能は破壊され、星をおおう巨大な樹になってしまう。星の住人はほとんどそれにのみこまれ死んだようだ。登場人物のほとんどが、結局死んでしまうし、ヨナは、樹になって生殺し状態だ。最後の最後に女神がでてきて、すべての生命は循環していて、死ぬと別の世界へ生れ落ちると救いの言葉が述べられる。が、ヨナは、死んでないし、このまま、半永久的に樹のままなのか。もともと、機械でしかないとはいえるが。
○おもしろいし、超越的な神の目線もあり、逆にミクロな恋や孤独、トラウマについて、繊細な心理も描かれていて、相当うまいとは思う。でも、個人的には、そんなに感じるものがなかった。800年の寿命というのも、SFにしては、中途半端に短い。少女のヨナが巨大なエイリアンに変身するメカニズムも、あまり説明がなく、説得力がない。巨大になったとき、中がスカスカなのか? 質量は少女のまま? 気になってしまう。映像にしたらおもしろそうなシーンが多いが、文字なので、欲求不満がたまる。バッドエンディングもいやだし、個人的には、5点。(客観的にみると7点を超えそう。星雲賞もとってるし)。でも、変身やグロいシーンを映像で見たいので、アニメ化は無理でもマンガにしてほしい。
○ちょっとさがしてみて、マンガでているのかと思ったけど、題名が同じなだけなのか。
http://www.marine-e.co.jp/sakuhin/hybrid_child/index.html
「人形師・黒田の作る、愛情を受けると成長するというふしぎな人形」
これは、ぜんぜん別の話。
○文体は、きれいだが、説明文とちがって、小説の文章は、わかりにくい。なかなか名前がでてこないまま、心理描写がつづいたり、わざと名前をださないで、体の傷あとの描写だけで誰なのかを暗示させたり。遠まわしな書き方をするほど文芸になるところがある。その上、SFということで、現実世界の描写じゃないので、難解ではないが、読みにくい箇所があった。ちょっとストレスがたまったが、だいたいどの小説も、こんなものだろう。
○そういえば、ミラグロスもよかった。殺戮をつづける狂気の星全体を管理するコンピューターのミラグロス。最初、ただ、狂っているだけかと思っていた。それは、殺すことによって、対象を調べ、コンピューターの中にとりこんでいく。死んだ人間は、ミラグロスの中で生きている。マトリックスの世界のようだ。生命をとりこんでいく、グレートマザーとして描かれているのがおもしろい。