ゲーム的リアリズムの誕生  東浩紀

大塚英志のまとめと、ゲームなどのあらすじの紹介が大半をしめる。
○大塚はゲームのような小説は、まんがアニメ的小説とちがうという。ゲームでは、リセット可能なので、いくらでも異なった物語、死を経験できて、傷つき、死ぬ身体を獲得できない。ゲームでは死が描けない。必然性のある物語がない。
 この本は、ほとんどここからの発想だ。なので前半は、大塚の引用が長い。大塚はゲーム的な小説に否定的な態度を見せた。そこに目をつけてゲーム的小説などにおける成功例を持ってきて東は、ゲーム的リアリズムが成立すると言う。この本で言っていることはほとんどそれに集約され、後半の作品論では、ゲーム的な作品のあらすじの紹介が大半になる。
○キャラをもとにパラレルな物語がつくられるので、キャラは、メタ物語でゲーム的な存在だという。しかし、これはいいすぎだろう。オリジナルのアニメで死んだキャラは、同人誌などがどうつくられようと生き返らない。リセットはできない。キャラ立ちと物語(必然性のある死)は両立する。
○作品論の「ALL YOU NEED IS KILL」
 タイムスリップしてはもとにもどるループする戦闘の世界。ゲームのようにリセットが効く。物語の中では、全員がキャラクターだ。しかし、ここでは、主人公だけが、ゲーム的、メタ物語的なプレイヤーになっている。そこで生まれる感情は、大塚の言うようなものでなく、リアルな感情である。
 敵に勝つとループがおわり死が確定する。ループで多数あったパラレルワールドの生の可能性が消えてしまう。プレイヤーは、無力感を持つ。
ループが終わるということは、ゲーム世界でなくなることだ。だから、大塚を否定したい東のいう純粋なゲーム的リアリズムの例としては不適切になってしまう。むしろ、ゲーム否定の物語だ。東自身も「ゲーム的メタ物語の全能性を放棄する物語」と書いているのだが。
○というようなところ数箇所にひっかかったが(それが妥当な批判なのかどうかまだ考える余地はあるけど)、全体的にまとまっていて再読する価値がある本だろう。
 前作にくらべると、アイデアが量的に少なく、繰り返しが多い。文章も少し硬く読みにくいような感じだ。前作がよすぎたのかもしれない。ただ、この本の厚み、この文章量でこの値段だと同じような値段で薄っぺらい本が多いので、お買い得に感じる。「ひぐらしのなく頃に」「AIR」あたりの、アニメが成功してポピュラーな作品も題材になっている。


  ゲーム的リアリズムの誕生~動物化するポストモダン2 (新書)
東 浩紀 (著)